講演者:友枝 明保( 武蔵野大学 / JST CREST )
題 目:錯視現象を計算する:幾何計算による現象の理解から錯視作品の創作へ
日 時:2014年12月8日(月) 18:00-
場 所:早稲田大学西早稲田キャンパス63号館 数学応用数理会議室(102号室)
オープニング
司会:皆さん、お集まりいただきありがとうございます。第2回数理人セミナーということで、今日は武蔵野大学の友枝先生に講演していただきたいと思います。実は前々から講演していただきたくてずっとブッキングを図っていたんですが、やっと叶ったというところでございます。お忙しいところありがとうございます。では、どうぞよろしくお願いします。
講演
友枝:ご紹介ありがとうございます。武蔵野大の友枝と申します。本日はこのような貴重な機会を頂きまして、ありがとうございます。
今日お話ししたい研究は錯覚に関するもので、明治大学の杉原厚吉先生と、この4月に修士を卒業しちゃったんですけど卒業生の小野君との共同研究になります。
講演の概要です。今回の講演は3つのパートからなってまして、一つ目はJSTのCRESTで今走っているプロジェクトの紹介をさせていただきます。数学分野のプロジェクトで「計算錯覚学の構築」という名前がついていて、錯覚をなんとか計算してやろうというプロジェクトに参加させていただいてます。なので、その紹介も兼ねて、錯覚、特に目の錯覚である錯視現象を数理からアプローチする目的についてちょっと説明したいと思います。もともと僕は渋滞の研究をやってたというのもあるので、錯覚と渋滞の関係についてもちょっとだけ触れたいと思います。
二つ目のパートとしては、今回は錯覚の話なので、作った錯覚の作品をご紹介していきたいと思います。その一つ目が錯視立体の数理設計法というものです。どういうところで計算を使いましたかということについてご紹介したいと思います。
最後の三つ目は、この四月まで小野君がゴリゴリやってたところなんですけど、フットステップ(Footsteps)という錯視、これは知られているものなんですけど、この錯視のメカニズムについて計算をすることによって錯視のパターンを分類し、組み合わせることによって、新しい作品―― 一応、アートといってますが――、アート作品を作ってコンテストに応募して、いい成績を得たとかいう話を時間がある限りご紹介したいと思います。
では早速、計算錯覚学の紹介をしたいと思います。
説明よりもまずは見ていただいた方が良いかと。比較的フランクな会なので楽しんでもらったほうがいいかなと思いまして。(8:17あたりから)
これは僕の好きなやつの一つで、『Six Mysterious Chimneys』。これは共同研究をさせていただいている明治大の杉原先生が作られている作品です。分かりやすくて強烈な作品だと思うんですけど。分かります? この、ギョッギョッとする感じ。
B:これ、画像編集とかではなく?
友枝:ではないんです。これ、実は目の錯覚なんです。回転させると、本当はこういうかたちなんです。ある視点から見ると……これぐらい強烈な作品を作れるようにならんといかんね。(笑)これは、ある視点から見たときに垂直に立っているように見えるように、2次元データを3次元に復元する計算をして作ってるというものなんです。錯覚がおもしろいのは、勘違いとか思い込みと違って、元に戻るとまた同じことが起こるという点です。
いい反応ですね。これ、文字起こししたほうがいいかもね。(笑)
「計算錯覚学の構築」というプロジェクトに参加させていただいてまして、そこの一つの特徴は錯覚を計算することなんですけれども、主に目の錯覚です。視覚における錯覚。錯視と呼んでますけど、どういう現象かというと、実際に見た物が物理的に正しい形状と異なって見えてしまうような現象のことを錯視と呼んでます。錯覚は実は理性で答えが分かっていても、ある条件が揃うと必ずまた起こるという特徴があります。
「なんで数学でやるの?」というところなんですけど、ここが重要なポイントなんですけど、錯視現象を計算する意義というのは、錯覚の仕組みを理解して錯視の強さ・度合いみたいなものを数字に落として、例えばモデルのパラメータをいじるとか、そういうかたちで錯覚を制御する、あるいは「こういう条件になったときにどう変わりますか?」という予測をすることができるわけです。なので、計算するというよりは数量化する、数字に落とし込むというのが新しくて重要なところになります。
実際、こういうコントロールができるようになると何がうれしいかというと、ちょっとこれは僕のやっている仕事の方で話をしますが、錯視量を減らす、小っちゃくすることができれば、例えば運転してて錯覚の影響で渋滞が起こっていたり事故が生じたりと、錯覚が悪い方向に働いているのであれば、その錯覚を減らすことによって安全な環境づくりを実現できるでしょうと。一方で、やっぱり錯視というのは人の目を引くことができるとか面白い表現に使えるということで、必ずしも悪いことばかりではなくて、錯視量を増やして効果的に使うことでアトラクティブな看板であったりデザインに使えるんじゃないかなという、両方の発想があります。なので、減らして幸せになる方向と、積極的に使って幸せになる方向がある。いずれにせよコントロールしてあげればこれらが実現できるでしょうということなので、元をたどると、この数量化、数字に落とし込めるというのが実はすごい大事なことなんです。ただなかなか難しい。。。と。今回のお話はこの赤字で「錯視量を大きくする」、要は積極的に使っていきましょうという話をしたいと思います。
ただ、もともと僕は渋滞の研究をやっていたので、「なんで錯覚をやり出したの?」、近い研究者からは「もう渋滞やめたの?」とかよく言われるんですけど、そうではなくて、実は渋滞を起こす原因の一つが道路上での目の錯覚だということに気づいて、それから錯覚に興味が出てきていろいろ考えているという状況です。なので、ちょっとだけ渋滞の方の話もさせてください。
これは高速道路の渋滞なんですけど、渋滞の発生原因は交通集中、混んできて渋滞するというのが4分の3ぐらいを占めてます。それ以外が事故とか工事とか、ある意味、突発的なもの。この交通集中、恒常的にあるやつの内訳を見ると、実はそのうちの60%ぐらいが「上り坂およびサグ部」と書かれていて、特徴的なある場所で起こっている。これは75%のうちの60%なので、だいたい半分ぐらい。全体でいうと5割ぐらいをこの「上り坂およびサグ部」という所が原因で発生しているということが分かります、高速道路の渋滞は。 じゃあ、「このサグ部ってどういうとこなの?」っていうんですけど、これは実は英単語から来てるんですけど、「sag」って実はたわむとかいう意味があって、真ん中がへこんでるお椀みたいな形状をイメージしてもらえれば。お椀みたいな形状なので、車は下ってきて上るんです。その変化点付近で渋滞が起こる。それはなんでかというと、ドライバーさんは実は「上り坂であることに気づきません」というのが原因にあります。この「気づかないというのがほんまなの?」ということで、これです。認識できてない。これはなんでかというと、実は坂道の傾斜を誤って認識している場合もあると。実はこれを突き詰めていくと、縦断勾配錯視と呼ばれる錯視現象があるんだということに気づきまして。
これがよく紹介される日本の道路での事例です。香川県の屋島というドライブウェイなんですけど、ここは高速道路ではないので車の往来はそんなに頻繁ではなくて、渋滞が起こっている場所ではないんですけど、道路の錯視現象の例としていい場所なのでご紹介したいと思います。この写真は何のトリックも無い写真ですけど、この道路がどうなっているかを思い思いに考えてみてください。例えばこの手前のエリアは上っているのか下っているのかとか、この奥は上っているのか下っているのかとかです。いろいろあるんですけど、多くの方は――今、ここ(奥の道路)に注目してください――ここを上ってるとおっしゃられるんですけど、「果たして本当は?」ということです。
(動画再生)
さっきと同じ所です。奥の道路です。オレンジ色の線が書いてある。今、ポテッとボールを置いたので、ボールの動く向きに注目してもらうと、映像の上に向かっているのが分かりますか? ちょっとずつなんですけど。シマシマ、見えますかね。この辺に置いて、今、グーッと上がっていってると。すげえ、指示語言ってるなあ。(笑)伝わります? 何を言いたいかというと、この奥に行くにつれて上り坂に見えるのは錯覚で、実は標高でいうとこっちが低いんです。こっちが高い。だからボールがこっちに転がる。すげえ、「こっち」ばっかり言ってるわ。これが縦断勾配錯視と呼ばれるものです。なので、これが例えば自転車でもいいんですけど運転していて「奥に上り坂があるわ」と思ってガーッとスピードを勢いつけて行ったりすると、ここは実際は下っているんでさらに勢いがつく。これを逆から見ると今度は坂道が逆に見える錯視現象が起こって。どういうことかというと、実際上っているのに下りに見えるんです、これを逆から見ると。なので、上り坂が下り坂に見えて正しくアクセルを踏みたさないと渋滞の原因になるし、下り坂が上り坂に見えたら速度が出過ぎてしまう。いずれにせよ、正しい運転ができない状況に陥ってしまうんです。なので、こういう錯覚現象は無くしていかなあかんと。このことから、渋滞研究から実は錯覚の研究に顔を出し始めたということです。
ここからが本題です。今日は錯視に関する二つのテーマがあって、二つの作品を紹介したいと思います。もちろん付随していろいろあるんですけど、一つは立体に関する作品で、もう一つは平面の動画に関するアート作品です。
まず最初は、ホロウマスク(Hollow mask)錯視というのが実は知られている錯視で、これをヒントに新しい立体を作ったというものです。
今、これ、マスクがあって、ひっくり返したので鼻が奥にあります。これはいいですかね? 鼻が奥にあるんですけど、手前に出っ張って見えるとうれしいんですが、どうですかね。もし出っ張って見えてれば、それがこのホロウマスク錯視と呼ばれる錯視現象の一つの特徴です。で、実はもう一つの錯視があってそれは見る人の場所に関するものです。見る人が動くと、実はこのマスクも回転して見えるという錯視があります。これは実際は回ってないんです、普通の引っ込んだお面なので。ただ、「これ不思議やなぁ」というのが強烈にあって、これをなんとか応用していきたいというのがこの研究のモチベーションの一つにあります。
例えば、この錯視効果はもう既に使われているところがあって、ディズニーのホーンテッドマンションなんかでも目玉が追ってくる肖像画、なんていう形で利用されています。目玉が平面の絵に描かれているように見えるんですけど実は奥にくぼんでて、さっきと同じからくりです。歩く人の方をずっと見るというからくりで使われている。この種の錯視の利用は、少なくとも動きがあるので、目を惹くという意味では納得していただける思います。これをもっと使っていこうということです。ここからはもうちょっと深めてホロウマスク錯視の顔の回転する速度――計算錯覚学とうたっているので――、それを計算してみましょうということで、その計算方法をご説明したいと思います。
状況はこういう状況です。実線はリアルです。実際のマスクはへこんでます。マスクを上から見た状態です。錯覚が起こっている人にはこの点線――破線といえばいいのかな――、この手前に出ているように見える。こういう状況設定です。回転を考えていくので、この各面に何らかのテクスチャ、パターン、模様が描いてあると思ってください。で、その模様密度というものを定義しましょう。つまり、一様なパターンが各面に描いてある。
正面から見たときに何らかの密度、ある模様が見えたときに、それを正面から見るのではなくて角度を持った状況で見てみましょう。そうすると、面の幅が狭くなります。この人から見ると、ここからここまでのこの幅の間に同じ量の模様があるので、見かけの密度というのはこの角度分増えます。これ、大丈夫です? そうすると、この人がちょっと移動した場合に、その変化量というのは微分で表現できます。この模様密度の変化量というのが計算できるわけです。
ポイントは、実際の面の状況では、ある角度、面の法線となす角をθとして、ちょっと面に対して右に動いたとしましょう。そうすると、法線とのなす角は増えます。なので、微分で書いてもいいですけど、その増えた量はこんだけになりますということです。これは自然な計算だと思います。なので、面に対して右に動くと、見かけの密度、ここに入っているテクスチャの濃度・密度は増えるということです。正面から見てたのを斜めから見るので、ここがギュッと詰まってるんです。文字起こし、難しい。大丈夫?(笑)言いたいことは伝わりますね。大丈夫ですね。
ここからが面白くて、これはリアルな状況なんですけど、錯覚が起こっているとして考えましょう。そうするとマスクが出っ張っていると思っているので、この状況で面に対して右に動くと法線とのなす角は減るんです。なので、見かけの密度は減少すると。ここに実はずれがあって、実際は―― 一つ前のスライドでご説明した――増えるんです。でも、錯覚が起こってるけど気づいてない人は減るはずなんです。ここにずれがあって、このずれ分をどう考えましょうかということです。実際は増えてます。でも、錯覚の状況では減るはずだ。ここにギャップがあります。
これは仮説になるんですけど、現象から推測して、マスクが回転しているということなので、このずれは実はマスク自身が回転していることで合理的な解釈になるだろうという仮定で進めていきましょう。どういうことかというと、回転の方向にずれがあるのでどこかで帳尻を合わせないとダメなんですけど、そこは人間の判断だと思うんですけど、マスクが回って見えるということでこのずれを吸収しましょうという仮定です。そうすると、マスクの回転角というのを考えれば、このΔαというのがこのずれに相当するので、実は観察者・オブザーバーの移動速度、移動角度の2倍の速さで回るということが分かります。ここまで大丈夫です? このように錯視現象を計算して、例えばこの場合であれば、回転速度というのが実は常に観察者の方を見ているのではなくて追い越していくということが分かります。ここに計算を使うことのアドバンテージがあるわけです。
これで現象をある程度見れるところは見た、理解すべきところはしました。なので、次は錯覚の立体を作りましょうということで、今回、こういうくぼんだ矢印――これが完成図なんですが――を作っていきましょうということで、錯視立体の設計をしていきたいと思います。何をするかというと立体計算なんですけど、いろいろ方法はあると思うんですが、今回はこの底面、底の矢印の形を与えましょう、これはgivenです。だから、ここの底面のx、y座標を与えて、このニョキッと伸びた上の大きい矢印の頂点群のx、y、z座標を計算しましょうという問題です。
ここでボロノイ図を使ってやっていきます。ボロノイ図は何ですかというと、直感的な説明ですけど、何かしらの母点、ジェネラータと呼ばれるものが、この場合は平面上に散らばったときにそれを分割して得られる図です。分割方法は、ある点がどの母点に最も近いか、母点のテリトリーに入るように切るということです。この辺だと一番近いのはここになるのでこっち側みたいな、縄ばり図を描きます。この境界は簡単で、垂直二等分線いなります。
これは最もシンプルなボロノイ図なので分かりやすいんですけど、今やりたいことは、このジェネレータと呼ばれるキーになる部分が点じゃなくて線分として考えましょう。今までは点だったので垂直二等分線でバツーンと切ってやればよかった。ただ、今はこれが矢印の線分だと思ってください、多角形を形成する線分。「それの真ん中ってどういうこと?」っていうことです。
実はアルゴリズムがありまして、Straight Skeletonと呼ばれるアルゴリズムです。これは何に使われてますかというと、屋根の設計に使われているようです。屋根の壁を上から見た多角形に対して屋根を伸ばす、その尾根の計算に使われています。このポイントは、実はこの線分lと線分l'があるときに、通常の距離というとこのユークリッド距離が使われることが多いんですけど、そうするとこの端点から端点までで距離が測られる。もちろん一番ミニマムなところをとるので、これが伸びてくればこの幅が距離になるんですけど、ずれるとここがユークリッド距離で測られたときのミニマムになると。なので、この測り方をちょっと変えて、straight line distanceと呼ばれる、線分じゃなくて直線で考えましょうと。なので、ピーッと伸ばしたこのミニマムの距離というので距離を定義しましょうというものです。
ちょっとずつ込み入ってきますけど、例えばこういう多角形が与えられたとしなさいと。今やりたいのはくぼんだ構造を作りたいわけなので……これはx、yです。だから多角形を上から見た状態に対して、これを橫から高さ方向を見たのがこの図です。この多角形を底面とするくぼんだ構造、だからここに斜面を作りなさいということです。それを作るためにどうすればいいかというのを考えましょう。
このpを囲まれた多角形だとして、これはちょっとformulateなだけですけど、各線分をedgeの頭文字をとって、eで番号を付けましょうと。で、αをここの角度にしましょう。今、45度にします。hは何らかの与えられた高さにしましょうと。そうすると、この各edge、線分を外側にビーッと伸ばしていきます。それがこの斜面を作ってるのに対応すると。ある高さ、このときはhとするので、ここの長さでいうとh cotαという長さになるところで止めましょうと。ただし、この赤丸のように途中でぶつかってしまったら、必ずしも高さhにならなくても止めましょうと。こういうかたちで作ります。ついて来れてます?
で、作ったらこんな感じです。ちょっとずつ険しくなってますね。このpというのに対して外向きに作って、外側のボロノイ領域が得られるということです。
なので、イメージでつかんだ方がいいと思うので、この矢印を与えます。これ、z=hの平面に与えたとしましょう。ピーッと外に伸ばしてます、ピーッと、ピーッと。最終的にある所で止めたこの赤い矢印について、x、y座標が先ほどのボロノイ分割で得られるというわけです。その面をz = hとしなさいと。そうすることで3次元の座標が全ての頂点に対して得られるというわけです。
なので、こういうかたちができるというわけです。
これも簡単なんですけど、この3次元座標を平面上にパタン、パタン、パタンと変換すると、こんな展開図が得られます。で、組み立てます。
そうすると、こういう一つの立体ができます。『矢印の幻惑』という格好いい名前を付けてます。「左がくぼんでて、右が出っ張って見える」とか「左もいやいや出っ張ってるよ」とか「両方とも何とも言えねえ」とか、いろいろあると思いますが。。。
いずれにせよ、答えは両方ともくぼんでます。くぼんでるってどういう意味かというと、この中の矢印が奥にあります。だから、少なくともこっちが出っ張ってると思われている方は錯覚がちゃんと……ちゃんと起こってるというのも変ですけど、僕的にはうれしいということです。
実はこれを動画で見てみると、観察者、撮っているカメラを動かすと、この矢印も回って見えます。これはホロウマスクと同じ効果を出していると。なので、こういう矢印を学会の看板とかで使ってもらえれば、学会で受付の場所が分かりやすくなるんじゃないかなと。(笑)
(動画再生)
これもいろいろ比較の動画があるので、やってみます。左が錯覚で出っ張って見えるやつです。右側は実際に出っ張ってるやつです。回転させると、今、同じ方向に回ってますけど、こっちが手前です。こっちが奥です。でもたぶん出っ張ってる方はあたかも逆に回っているような印象を持つような。こっちと逆に回っているように見えるんですけど、実は同じ方向に回っています。たぶんだいぶ角度がつくと分かると思うんですけど、この辺から逆回転かのように見える。こういう回転する錯覚を使っていろいろ表現できるかなと思っているわけです。
これも面白くて、3Dプリンタで作った立体です。ちょっと後でもご紹介しますけど、実は光の当て方が結構重要で、上に明るい部分、下に暗い部分を付けると、実は出っ張って見えるというわけです。ちょっとここを見てもらえれば分かると思いますけど、上が明るくてこっちが照っているんです。こっちは下からライトを当ててるんで、こっち側が明るくなってるんです。そこに実はこの違いがあって、上の方が明るければ出っ張って見えるというわけです。なので、実は手前の下から照らさなくても、後ろから透かせてやれば同じことができるよねという例です。
もう一つ、これが実は個人的にはアピールしていきたいんですけど、駐車場の看板。コインパーキングとかの「P」が今ただ平面に描かれていると思うんですけど、これもへっこませた立体で出っ張らせて見えれば「P」が回るんじゃないのということで、こういうアルファベットを作るということも実はできてます。ちょっとこれが次の課題なんですが、曲線、曲面は扱えてないんで、あくまでも折れ線と平面で作られてますけど、こういうのもあります。出っ張るというのはここです。「P」の骨の部分が出っ張って見えるかへこんで見えるか。
一つ目の話の後半です。まだそこですけど、これの違いは、先ほどご紹介したように上から照らすか下から照らすかなんです。上から照らすと、この下の斜面が明るくなって陰がつく。下から照らすと上の斜面が明るくなって、こういう陰がつく。なので、陰のつき方で実は凹凸って反転しますよねということで、これは実はクレーター錯視ともう知られている錯視のファミリーであることが分かっています。
これはクレーター錯視の例です。このクレーター、へこんでます? でっぱってます?これをクルリンと回すと、「おおー、出たねー」ってなります(笑)リアクションがいいですねー。
クレーター錯視について説明します。これはへこんでます。でもこれを回すと、上下を反転させると、出っ張って見えると。これはちょっと画像があまり良くはないんですけど。というのは、影が上下というよりは左右になっちゃってるので難しいところではあるんですけど、画像を回転させてへこんでいたクレーターが出っ張って見える錯覚現象です。
実は人間の脳は陰を手掛かりに、目で見た2次元の情報に陰というadditional情報を足して3次元に復元しているので、その陰のつき方で凹凸が変わるということが言われています。Shape from Shadingと呼ばれています。特に生活環境は太陽が上にあったりライトが上にあるということで、光が上から来るのが自然でしょうという知覚に関する仮説があります。この仮説を信じると、上が明るいということは、この立体は出っ張ってるんでしょうと理解するわけです。実際は下から照明を当ててくぼんでいるんですけど、それに気づかなければ上が明るいのは出っ張っているということです。「なるほどそういうことか」と。このクレーター錯視というのを手掛かりに、ちょっと新しい作品を作りましょうと考えました。そのアイデアとか「なんでそんなん考えたの?」を紹介したいと思います。
これは出っ張ってて、これはへこんで見えるかもしれませんが、両方へこんでいるやつです。この違いは、下側が暗くて上が明るいか、上が暗くて下が明るいかの違いです。ということは、まず、応用が念頭にあるのでこういうことを考えてしまうんですけど、これは今ライトで照らしてますけど、もともと白い紙なので、あらかじめ色を付けておけばライトがいらないんじゃないかと。そうしたらコストを抑えれるので使ってもらえるんじゃないかなというのが、一つ目のアイデアです。
さらに、これは立体といってますけど、この写真で撮った画像は少なくとも2次元情報、平面なので、複雑な立体を作るんじゃなくても、平面にうまいことこういう陰を入れれば立体に見せられるんじゃないか、とも考えたわけです。これが二つ目。さらに、ほとんど全部平面の矢印にして一つだけ立体というのを入れれば、先ほどの回転の効果で、観察者が動くと、他の矢印は回転しないんですけど立体のやつだけずっと回転する。なので、矢印いっぱいの中に1個埋め込んでやると、なんかその立体矢印だけ回転して見えるというのが、「あれ? なんか動いてる」という目を引くようにできるんじゃないか。
この三つの発想から、こういう順番で作っていきたいと思います。まず、この立体が既にあります。なので、これをまず平面に投影した矢印の形を作りましょうと。立体から平面に射影です。次に、その平面に対して適切な陰影。どういうことかというと、出っ張って見えるような影をつけましょう。そうすると、この平面たちは完成です。で、この平面と同じ陰を持つようにこの立体の紙にペイントしてやれば、全く同じに見えるはずだということで作っていきます。
投影変換は簡単で、ある視点1から実際の立体1、pに対して平面上のp0という所への射影はこういう変換で得られます。これはただの図形の問題です。
ちょっと途中を端折ってはいますけど、「えいやっ」と色を塗りましょう。上を明るくしておいて下を暗くしておけば、出っ張って見えますよという。これが前提です。
次、もう早い。順番でいうと、平面の頂点座標を求めたので、平面の矢印がもう作れるようになりました。作れるようになったので、色を与えましょう。色を与えることで、これは平面なんだけれども立体に見えるものができたというわけです。
最後に、この平面で色の付いたやつと同じように見える立体を作りましょうというのが、この三つ目です。これはまだ改良の余地がいっぱいあるんですけれども、光の拡散反射というものを仮定して、立体でも同じように見える色を計算しましょうということです。これは木の幹とかを考えてもらえばいいんですけど、拡散反射には実は光の入射光に対してどの角度から見ても同じ明るさに見えますという特徴があります。これは実はすごく簡単で、この光の入射光と法線方向のなす角cos、それと欲しい色、今の場合、白から黒の255段階のスケールで見ましょう。i0、この辺はキャンセルされるのであまり本質的ではないんですけど、光の強さとか反射率みたいなものが入ってます。これらで明るさが決まりますというわけです。なので、これを計算して作っていこうということです。
どういうことかというと、この赤字、面xの輝度というのは、これは平面の矢印に「えいやっ」と塗ったさっきのCGに基づく色がこのCxφです。いいですかね。ある光の入ってくる角度となす角がφxです。だから、ここがφxです。ある色、これはgivenでもう塗ってあると。で、i0とxは同じ材質だと思えばこういうものだとしましょう。こっちと同じということです。で、明るさが決まると。
やりたいことはへこんでいる立体です。へこんでいる立体の明るさをこれと揃えましょう。揃えるために、このC、この色を求めたいというわけです。立体になると面の角度があるので、このφもちょっと変わる。ただ、これは面の傾斜と、もともとの入射光の角度から決まるgivenです。lxのこっちに揃えるので、これも分かっていると。なので、Cx_とイコールというのを解きましょうということです。このlaも消えるので無視してもらってよくて、要は明るさを一緒にすれば見たときに同じ見えるでしょうというのが前提にあるので、イコールで結びましょう。この左辺は既に分かっているやつで、右辺の分かってないのはこのCだけです。
なので、このグチャグチャグチャっと、このCx、Cサブx_イコールの式を求めたい。これはlaが消えて、この式とこの式からこれが出ます。すごい簡単な計算ですけど。cosというのを面の外積と内積を使って計算してやれば、このcosφってこんなふうに表せて、代入すると実は平面の多角形の座標だけで出るということが分かります。
もう一回言います。今やりたいことは同じ色に見せたいんです。同じ色に見せたいから、このl、平面の明るさと立体のときのその面の明るさというのを同じにしたいわけです。既に色が塗ってあって角度も分かっている状態で明るさを計算して、それと一緒になるような色を計算しましょうというのがここのスライドです。それで赤いformulateが得られるというわけです。
で、CGはこういう計算に則ってやるので当然っちゃあ当然なんですけど、左側が平面の矢印デザインに色を付けたやつです。右は実際にCG上で立体なんですけど、それに色を塗ったやつです。だから、これは全く同じに見える。
で、作った。これはリアルです。紙工作で作ったやつです。すごく厳密に言うと同じではないところもありますが、どうですかね。プリントアウトしただけでどっちが工作したやつかという違いが、分かるっちゃあ分かりますが。気持ちは両方出っ張っているように見えるように作りたい。
これは実は左が平ら、プリントアウトしただけです。で、右が作った立体です。なので、ちょっとだけここがちょっとこっちより明るいんじゃないかとかあるんですけど。こっちが少なくとも立体に見えれば、どっちが平面かというのは分かりにくいかなと。
で、作った一つの作品がこれです。まず、これを見ていただいて、4つのうちの1個が立体なんです。4つのうちの1個が立体なんです。(笑)最初のモチベーションにあった一つだけ動いて見せれるということです。なので4つ並べて、ちょっとカメラはぶれてますけど、こいつだけが回って見える効果が見えますかね。見えますか? これは本当はもっといっぱい並べて1個だけにするとより顕著に見えるかと思うんですけど、こういう錯視立体を作ってます。これが作品作りの一つ目でした。立体で何か目を引くようなデザインを作りたいという今やっている話でした。
もう一つは、この中心にいる小野君ですけど、彼がメインでやってくれていた仕事でフットステップ錯視という錯視現象を使ってアート作品を作ろうというものです。今までのはもう忘れてもらって結構で、ここから新しい話です。なので、付いてくるならここからです。
フットステップ錯視アート。フットステップ錯視という知られている錯覚現象を計算して、動きの見え方を分類し、組み合わせることによってアート作品を作りましょうというものです。
早速、動画満載ですけど、フットステップ錯視というのはこういうものです。
ここは実はちょっと見にくいですが、白い長方形があります。こっちが黒い長方形です。分かります? 互い違いに動いているように見える。でも実際は等速、何の操作もしてなくて、錯覚で互い違いに見えているだけです。なので、このスピードを変えずにずっと動かしているだけ。だからプログラムはすごい楽なんですけど、見え方は一致しないというわけです。これも右・左・右・左・右・左……。
これ、実は言われているのは、お気づきの方も多いと思いますけど、交互に動いて見える錯視は、コントラスト差が要因ですと言われています。どういうことかというと、こいつが動いていって、このシマシマの上に乗ったときに端っこが溶け込むか溶け込まないかのタイミングが重要ということが言われています。そこまで言われてるんやったら、そのタイミングをいろいろ計算してみようということで始まりました。
左は、ある幅を持たせたときです。シマシマに乗ると、止まって動いて、止まって動いて、というふうに見える。我々の大きなモチベーションの一つにこういう錯覚の強さをコントロールするというのがあったので、この逆、ある計算によって逆にしたやつなんですけど、そんな難しいことはなくて幅を変えていくだけなんですけど、「逆にしたら錯覚が起こらないんじゃないの?」というので計算してデモを作ったのがこれです。
そうすると確かに止まりはしないんですけど、あたかも幅を変えているように見えるとか、あとは、ちょっと立体的に見える人はボード板が前・後ろ・前・後ろで傾きを変えて動いているように見えるとかいうかたちに見えると。なのでいずれにせよ、ちょっと条件を変えて錯覚が起きないようにしたつもりが、実はこれは思わぬ副産物で、2つの動きから、止まって動いてって見える運動と伸び縮みして見える運動の2つに分けられるということが分かりました。
じゃあ、錯覚を強めてやろう、弱めてやろうということをやってみようと。で、何をやるかというと、こういう計算をしました。ちょっと見にくいですが、この白・黒・白・黒をさっきのシマシマの部分だと思ってください。この黒いやつがオブジェクトと呼ばれる、前を動いていたやつ。で、何をするかというと、ポイントはコントラスト差です。どれぐらい溶け込んでいるかというのがポイントになるので、溶け込んでいる時間というものを計算しようということで、周期的なので1個の幅ωに対して2ω分動く余地がありますと。そのうち、隠れている時間距離を計算しましょうというのが方針です。
ωを幅にします、背景のシマシマの幅。オブジェクトの幅をxとしましょう。そうすると、オブジェクトの幅がシマシマの2倍、1本よりは大きくて2倍より短いときはこういう状況です。要は、シマシマ2つ分以内に収まっている状況。そうすると、両方の端っこが隠れるというのは、この赤棒で示したこの幅、これがなんぼかというとx-ωの幅です。これは右がピッタリこの境界線に乗ってると思ってください。そうすると、このx-ωの幅の時間距離分だけ隠れているわけです。なので、全体で2ωの周期のうちのこれだけ隠れているということが分かります。
で、もう一つ。もうちょっと大きく取ってみましょう。オブジェクトの幅が2つ分よりは大きいけど3つ分より狭いとき、そのときに隠れている時間距離というのは3ωからここを引いた分だけになります。なので、こんなふうに計算できるわけです。これをズラズラやっていって、この比率、全体分の隠れている時間距離を一番大きくするにはどうしたらいいかというと、これを横軸がxで縦軸がこの比にとったものを描いて関数を描いてもらうと、カクカクカクと折れたものが得られて、実は偶数倍、2ω、4ω、6ωのときにこの比が一番大きくなるということが分かります。これらは両方が同時に隠れている状況を最大にする数値です。両方が隠れているので、動いて止まって、動いて止まってというフットステップ錯視が一番強烈に起こるようにできるというわけです。
もう一つ、これはインチワーム(Inchworm)という、さっきあまり触れませんでしたが伸び縮みするやつです。伸び縮みするやつを同じように計算すると、同じように隠れているときを計算しましょう。そうするとこのように得られて、ここからのポイントは、隠れている状況を計算しているのはさっきと同じなんですけど、今度はこれをミニマムにすればいい。これを最大にするとフットステップになるので、ミニマムにしましょうと。そうすると片方ずつ隠れる状況なので、こういう伸び縮みが実現できるだろうと。これを計算すると、これは今度は奇数倍なんです。まあ、想像できるかもしれませんが。先ほどは偶数倍だったので、今度は奇数倍で短くなるというからくりです。
ということは、こんな分類ができるんです。まず左を見てもらうと、1、2、3、4、5、6、7、8の8パターンに分類されています。x1、x2が実は幅を表していて、evenが偶数をoddが奇数を意味します。これは、背景のストライプの偶数倍か奇数倍かというパターンのことです。
dというのが、これはご説明しませんでしたが、1つを動かすんじゃなくて2つ動かしたときの幅を意味するシンボルです。このdを変えると、同時に起こるか、互い違いに起こるかという差が作れますと。なので、それぞれ2パターンで3つの幅があるので、2の3乗のこの8パターンが得られるということが分かります。
で、これがそれに対応する見かけの動きです。フットステップになるのかインチワームになるのか、シンクロするのか互い違いに見えるのかで8パターンに分類できたということなので、この8パターンの組み合わせでいろいろアートを作っていきましょうということで、結構いろいろあります。ちょっと早いですね。いっぱい見てもらえばいいのか。
タイトル:海と陸
これも面白くて、本当に組み合わせだけなんですけど、左のシマシマを細くして右のシマシマを太くします。で、顔を付けて、胴体を付けて、脚を付けて。そうすると、左は手足が同時に止まるんです。一方、右のシマシマにいくと手足が反位相になるので、左は泳いで来ていて陸に上がる。で、こっちで卵を産みます。この辺はちょっと、おじさんよりは小野君の柔らかい頭がかなり利いていて、めっちゃ好きな作品の一つですね。
タイトル:満月のこうもり
これは一昨年の日本の視覚学会、Visionの学会のコンテストで入賞した作品で、これはコウモリをイメージしてます。今度は2次元的に斜め上に動くので、2次元の格子を作れば羽ばたいているように見せれるんじゃないかというわけです。これの一つのポイントは、後ろが紺色なんです。で、コウモリは黒なので、必ずしも同じ色じゃなくてもちゃんと起こります。ちょっと、これ、コウモリを飛ばし過ぎですけど。(笑)満月の前を飛ぶ。この満月も実は良くて、ここで錯覚が起こっているので、ネタ晴らしの場所がアートとして必要で、それでこういう設定をしています。結構、反響がありますねぇ、これは。
タイトル:めいじろうの風車
これは「めいじろう」です、明治大学のマスコットですけど。こいつが風車を持っていて、今度はシマシマが動くパターンです。そうすると、ちょっと黒く埋まる分がここをこう右回転するみたいに……。こちらは実は逆回転なんです。全く同じ形なんですけど、回転方向を逆にすることもできます。見てもらえれば分かると思いますけど、これは形は同じなんです。なんで逆回転になるかというと、ちょっとだけこいつの方が上にあるんです、こいつに対して。それでタイミングをずらして、逆回転をつくるというわけです。
タイトル:ワルツ
続々と出てきますけど。これは新しいタイプで、今までは長方形とかストライプに対して端っこが一瞬、同じタイミングでかけると同じタイミングで出るんですけど、こういう円形を使うと、ある所は隠れてある所はまだ入ってないみたいな状況ができるんです。これを……見えますか? 視力が良くてあまり見えない方は、メガネをちょっとずらしてもらったりすると強烈に動きます。分かるっちゃあ分かるんですけど、要はストライプにかかるタイミングがずれるので、この端っこが同じタイミングで伸び縮みとか止まったりするときにずれるんです。それで楕円だったら楕円の輪郭に沿って止まる動きができたというわけで、「これはクラゲだ、クラゲだ」と。で、こういうデザインを作ったんです。
ちょっと遊んでるばかりでもなくて、実は時計に使おうということで。デモを見てもらったら分かると思いますが。時計もスムーズな秒針と、カッチカッチと音が鳴るか分からないですけど刻む時計があると思いますけど、こいつはスムーズなやつですけど。で、実はこれはちょっと後付けではあるんですけど、時計の技術的にその2つの動きを一気に入れるというのは難しいようなのです。つまり、スムーズに動いている場所と間欠運動する場所を一つの時計で実現することは難しいということで、じゃあ、それは錯覚で表現できるよねということで、こういうのを作りました。
半分だけだと、こっちを見てれば止まるんですけど、こっちを見てればちょっと滑らかなので、なんかこの辺が分離しているようにも見えたり見えなかったり。これは実はもうCGがすぐできたので、作ってみようということで、こういう時計を外して中に紙を入れてやってるわけなんですけど。秒針にこう付けて。そうすると、たぶんここそこまででもないんですけど、あと、これを見ちゃうと動いているのがばれるので、ここが難しいところではあるんですけど、一応この先だけに注目してもらって、この下の4分の1を見てもらうと、結構……どうですかね。止まろうといている気持ちぐらいは分かるかなっていう状況ですか。
なので、こうやって実物の時計を作るのもそうですし、スクリーンセーバーとかそんなのでもいいのかな。実はこれはちゃんと明治大学もサポートしてくれてまして、会社さん、企業さんが使えるように特許の出願までしています。もしお近くに時計関係の人がいましたら、ぜひご紹介ください。是非とも製品化までいきたいところです。
これはデザイン違いなだけで、むしろ「この隙間を秒針だと思いましょう」みたいな。そうすると、これも予想どおりだとは思うんですけど、同じタイミングで止まって見えるとか。そうか、時間があるなあ。で、止まる。こっちがちょっと太くて、こっちがちょっと細いので、右と左で見え方が変わるんです。
これは止まるタイミングをずらしてます。右はこれも太い秒針ではありますが、チェッカーボードみたいにするとタイミングがずれるので、こんなふうに見えますよとか。同じようにこっちが太くてこっちが細いので、こっちはちょっとあまり強烈じゃないかもしれませんけど、一応、伸びて縮んでのバージョンのかたちです。
で、これは本当の本当の最後ですけど、あと5分ぐらいで終わっちゃうな。
実は先ほどの作品たちを……The Best illusion of the Year Contestというのものが毎年開かれてまして、これは2013年ですけど。何かというと、こんなものです。実は錯覚の新作ができたらここに応募して、1位を決める世界コンテストです。なので、世界中の錯覚作品クリエーターたちがここに応募するというわけです。まず第1次予選としては、この視覚科学学会の学術的な審査員がこの錯覚は新しいとか面白いとか、学術的に評価します。それが専門家によるこの1次審査です。で、ベスト10が選ばれて、ベスト10の人は「最終プレゼンをやるからフロリダに来い」と呼ばれます。実費ですが。そのファイナリストとしてフロリダでの決勝戦をやって、1位から3位を競うというコンテンストです。
これは実はなんちゃってコンテストじゃなくて、ちゃんと学会のサポートを受けているイベントでして、視覚科学に関する国際会議のサテライトイベントとして行われているものです。実は2013年に小野君が最優秀賞を受賞しました!世界一に輝いています。
最後は今までご説明したからくりに無い現象で、まだどうやって説明すればいいか分からないんですけど、とりあえずアートが先に先行してできてまして。
何かというと、こういう動きを表現できそうな設定が見つかっている。数理的にじゃなくてたまたま偶然に見つかったので、それを使って作品を作ろうというのが、これらの作品群です。これは今までの二つの動きに加えて、三つ目の動きが見つかって、それを組み込んだという作品です。これを応募したら、2014年、今年の5月に「フロリダにおいで」と呼ばれて、トップ10、ファイナリストになったやつです。これは9月の応用数理学会で喋ったのかな。3月? ご存じの方も多いかもしれませんけど、これ以前の話は黒と白だけだったんです。今回はグレーが入ってる。グレーが入っていると、これも見える方は「首を振っているように見えてくださいね」って。
タイトル:鬼ごっこ
これはちょっと本当に分からなくて、このグレーがいいのか、どのグレーがいいか分からないので、いろいろ出してみて。(笑)一応、この長方形はミミズです。ミミズを食べようとハトが追ってくるみたいな。なので、このグレーも本当にいろいろあるというふうに。同じように……どうですかね。こいつが強烈な気がするなあ。
で、時間になりましたけど、あと1つだけなのでお見せしたいと思います。『UFO』です。
タイトル:UFO
そうか、こっちを様子見だったらよろしいですね。これが1個だけだとあんまり見えないかもしれないね。今のところ右に等速で動いてます。で、発想はコウモリと一緒なんですけど、「いっぱい出そうぜ」ということで。いっぱい出てきたときに、例えばこれを見ながらこの辺に意識があると、ユラユラ前後に動いて見えるのではなかろうかと。
これもなんでか分からないんです。というのは、今までの止まって動いて止まって動いてと伸び縮みするのは、あくまでも一方向で進むか止まるかなので説明できるんですけど、この一瞬戻るというのがなんでなのかなというところなんですけど。分からないまま作ったんで、なので、数理はまだ何もありません。ただ、なんとなくそう見えるから作ってやろうということですね。
まとめをしたいと思います。まず、「錯覚を計算することに何の意味があるの?」ということで数理モデリングと書きましたけど、計算することの意義みたいに思ってもらえば、この錯視の量を定義する、予測することを目指したいということです。まだ体系的には何も無いんですが、例えばホロウマスクのマスクの回転するスピード、回転角を計算すると実は見る人の2倍であるとか、フットステップとインチワームは伸び縮みする条件はこうだとか、そういうことを計算することは今のところでき始めています。なので、それで最大・最小を設定することで作品作りなんかにも生かされているというわけです。
錯覚を積極的に使っていきましょうということで、半分お話しみたいな発表でしたけども、一応、このデザインという方法で利用していけるようなものを作っているので、特にフットステップの方は実用まで見据えて特許を取ったりもしてますので、お近くに――先ほども言いましたが――時計関係の方がおられれば、あるいは時計関係の所に就職する学生さんがおられれば、(笑)これを持っていってもらえればちょっとは出世できないかな……。(笑)まあ、こういうことでした。どうもありがとうございました。(拍手)
質疑
A:おもしろい講演をありがとうございます。何か質問があればお願いします。
友枝:数理ですかね? 数理入ってるよね。何も無ければ、いろいろ持ってます。
B:時計はへこましたりしないんですか?
友枝:時計、へこましましょうか? 時計をへこますと、どうなるんだ? 見る人の方を向く時計ということ?
B:それで、しかも揺れてるみたいなやつで。(笑)
友枝:それはありですね。時計の場合は半円球にボコッとへこませればたぶんいいので、比較的作りやすいかもしれないですね。だから、針が平面に見えるけど、見てる人の方を向けばいいということですね。それ、面白そうですね。
B:もう1個、特許をもらって。(笑)
友枝:じゃあ、一緒に名前入っていただいて。(笑)
C:矢印のやつで曲面ができないというのは、どこが分かれてるんですか?
友枝:作り方なんですけど……どれが分かりやすいかというと、これで説明しようか。ボロノイ図を使った作り方ですと、この線分を外に伸ばしていく、伸ばしていくという方法なので、ここが例えば曲線だったら、その曲線のまま外に伸ばすというのを解析的にやる方法が僕には分からなくて。多角形近似して外に伸ばすならできるんですけど。なので、なんか曲線のダイナミックスみたいなのでやりたいなというのが実は今考えているところです。
C:単純にどこかの点から拡大ではうまくいかないの?
友枝:それでいけるのかな? こう曲がってたとして、それを広げていきますよね。平行移動でいいのかな?
C:連続だと難しいか。単純に拡大が全部で、中心から距離の差分を……
友枝:そういうことか。実は、この四角い黒い矢印と大きい赤い矢印は相似じゃないんです。こっちがちょっと長細く見えるのは分かりますかね。なので、単純に形をズームアウトして作ると、それでも立体はたぶんできると思うんですけど、今回のこのボロノイ図の方法ではできなくて。それでもいいのかな? どうするんですか?
C:最初の方を聞いてなかったので、くぼんでるとかというのはボロノイ図のやり方というのがキーになってるの? 立体になったら、くぼませるやり方というか……
友枝:あります。「あります」という答えは、ボロノイ図ありきで話をしちゃってるのでできないという結論になっています。なので、気にせず立体を作ることができます。そうすると、同じ効果は出せます。それを計算して立体を作りたいという発想が背景にあったというわけです。
C:一番やりやすいやり方が?
友枝:システマティックに作りたいという。なので、今は多角形になっちゃうんですけど、任意の底面多角形に対して立体を作るアルゴリズムという動機でスタートしているので、こういう話になっちゃったんです。なので、平面上の任意の曲面でこういう立体を作るというところが次のステップというかたちで話しちゃってます。
D:アインシュタインの顔みたいな感じで、直線でボコってへこませれば、一応作れますよね?
友枝:作れます。同じ効果は出ます。なので、それこそ石膏の中にバシャーンと顔を突っ込んであげれば、これになります。(笑)
D:そこに非線形性が入るから、どうやって出てくるのがいいのかで。
友枝:この辺の皺が……。これは今回、くぼみ構造を作るというモチベーションで説明したのであれなんですけど、実は線分ボロノイ図という、ボロノイ図の幾何の方で言うと、このアルゴリズムは曲線は扱えないので、「曲線を扱うアルゴリズムはありますか?」というのが一つの問題にもなっているんです、ここの分野で。なので、そういう視点からでもちょっと考えたいなというのは最近あります。
B:ボロノイ図のαって、どうやって決められてるの?
友枝:これは「えいやっ」って置きました。45度です。なんでかっていうと、なるべく深くしたいんです、効果を出すために。平べったくなればなるほど平面に近くなるので、なるべく深くしたい。でも一方で、広い角度から見えるようにしたい。円柱みたいにボコッとへこますと正面は見えるけど、ちょっとずれただけで隠れてしまってバレルんです。なので、真ん中をとって45度かなってことです。なので、「45度が最適です」とかそういう理由ではありません。
D:メガネ取ると0。1無いんですけど、すげえ揺れるんだよね。すげえ揺れるんです。メガネ取ると、なんでこんなに揺れるのかな?
友枝:揺れる? 揺れるやつ、揺れるやつ。
D:メチャクチャ動く。
友枝:そうですね。この錯覚の肝は、オブジェクトの端っこが見えるかどうかなんです。なので、すごく視力がいいと、この端っこがちゃんと検出できてしまって、錯覚が生じないんです。
○○:見えない。むこうが見えないんで、全然分からない。
友枝:前に来ていただいても。メガネを取ると、この端っこが分からなくなるんですよね、ぼやけて。なので効果が増えるというのは言えます。ただ、「なんで戻るの?」っていうところが分からない。
C:えっ、これ戻ってるの?
B:戻りますよね。
友枝:一瞬戻っているように見えますね。
A:見える、見える。すごい。
友枝:これを見てもらえれば。この辺を見て、ここを見れば。
○○:メチャメチャ揺れてるね。
C:本当だ。たまに戻るんですかね?
友枝:そうです、そうです。
C:たまにですよね? 戻るのは。
友枝:見え方だと思うんですけど、例えばこの辺をズーッと見てもらいながら、こいつを見てもらうと…
C:毎回生じるんじゃないんですね。なんか定期的に、ふとした瞬間に。あっ、前に戻ったね。
友枝:たぶんそれは、こいつを見たり見なかったりするのがあるので。見たときはちゃんと動いて見えてて、フッと別の所に目線を向けたときにフッて戻る。で、戻ったから「あれ?」と思ってそっちを見ると、戻らないということです。
C:なるほど、なるほど。
友枝:だから、なんでこれが戻るんだというのが分かれば、また作品がいろいろ出ると思うんですけど。どうですか? ウダウダ喋っちゃってますけど。
A:いえいえいえ、いいと思います。
B:ちなみに、このタイトル、鬼ごっこって描いてるの?
友枝:鬼ごっこです。
A:確かに。これはすごいわ。
○○:これ、すごいですよね。
A:これ、すごいわ。
友枝:これはメガネが無いほうがたぶん強烈。
A:メガネが無いほうがいいわ。
友枝:これが強烈に見える理由は、頭の部分と胴体の部分でタイミングを逆にしているんです。
A:なってる、なってる。
友枝:なので、動いた瞬間がすごい強烈に見えるみたいです。
A:すげえ。確かにメガネを取るとすごく分かる。
友枝:首を振ります。
F:うそ~。もはや、これ、首、取れてるんじゃないですか?(笑)マジで、マジで、マジで。
友枝:そんなに言ってもらえると……
F:首、取れません? もはや。いやいや。この辺に本当に相当数……。首、取れてるよ、もはや。
○○:取れるよね。すごいな。
C:ミミズをちゃんと見てよ。ミミズはもはやはじけそうじゃない?
F:ミミズいない。むしろ、ミミズいない。ミミズもヤバイ。
友枝:これが分かれば、次のステップにまた行けそうなんですけど。
F:何が分からないんですっけ? これは。
友枝:なんで戻るかが分かんないです。
F:そうか、そうか。首がなんで戻っているのかが分かんないですね。
友枝:今までの話は背景に溶け込んで止まるとかは分かるんです。分かりにくくなるところで止まるというのは。でも、「戻れるのはなんで?」という……。
F:確かに明らかに戻ってますね。
友枝:間のグレーでなるんですけど、グレーもどの辺のグレーでなるかがよく分からない。
F:全部、首取れてますよ、これ。
○○:後ろの棒は黒いの?
友枝:これは後ろの棒も真っ黒です。真っ白と真っ黒の間の、数字でいうと黒が255で白が0だとすれば、128とか真ん中ら辺のグレーでいろいろ作ってるんです。
F:この画像自体の解像度をすげえ悪くしたら、ぼかしとか加えて、そうするとたぶんメガネ外しちゃうやつを再現できますよね。
A:そうか?
F:マジ、首、取れますよ。
A:取れてるのは分かるけどさ。
F:そこじゃない? そこじゃないって。
A:他に何かありますか?
友枝:はやぶさ2でしたっけ、打ち上がったので、なんか延期、延期になってたんですけど。どうですか?
B:今のもある意味、戻るという現象がカウントできてるんですよね?
友枝:これは止まっているだけなんです。動いて止まって、動いて止まって。
B:相対的に戻ってるように見えなくもない感じが、ロケットの方が。
友枝:ロケットが伸びて止まるので、そこで戻って見えるのかな。
B:捉え方の問題なのかな。
友枝:からくり上は止まっているだけです。止まって動いて、止まって動いてに対して、前が等速で行っているので、こういう状況。
B:ああ、そうか。
A:止まってるね。
友枝:なので、戻るのが分かんないだけですね。
E:別の色とかを場所によって変えて、飛ばすやつの色によってなったりならない場所とかってできたりするの?
友枝:できます。実は作品ではまだないんですけど、基本図形というのかな、こういうやつで例えば左に行くほどグラデーションで薄くしていくとか。そうすると「どの辺から見えるんかね?」とかはやってます。
人それぞれなので、なかなか色の閾値をバーンと決めることもできなくて。なので、グレーも果たしてどのグレーがいいのかとかは分かんない。
E:赤と青のメッシュにしておいて、赤を動かすとこういう動きで、青を動かすとこういうやつって全く同じやつで、動かす側の色を変えてというのも……
友枝:動かす側の色を徐々に変えていく?
E:全く同じで、赤いやつと青いやつを例えば……
友枝:動かす?
E:メッシュ側が赤と青のメッシュにしておいて……
友枝:要は、この黒いのが赤で、白いのが青でということです。
E:そうか、それだとまた同じになっちゃうのか。
友枝:そうなんです。赤と青だと紫ぐらいにすると逆……シマシマが赤と青なら動くのを紫にすると、ひょっとしたら戻ったりするのかな。黒・白・グレーの発想なんですけど、中間ぐらいだと……。
日が落ちているところを、小龍……ドラゴンのセイントは誰? 誰でしたっけ? あの緑の……忘れた。紫龍だ、そうそう。
これはそれほど驚きは無いんですけど、六角形にしました。なので、ちょっと止まるかなあ。これが新しいのは、ボワンと引き込まれていっているような感じで。倉敷とかああいう所の壁、なまこ壁って言われますけど。これ、てっきり六角形だと思ってたんですけど、実は四角形なんです。違うやつです。
E:こういうことはどうやって作られてるんですか?
友枝:これは実はProcessingという本当にJavaベースのグラフィックスに特化したやつで作って、パラパラマンガ出してつないでるだけです。なので、授業で使いやすそうな雰囲気が、プログラム演習みたいな。そんなところですかね。
これは実はさっきのクラゲの、もともとこっちだったんですけど、丸にする前に四角を傾けてみようということで、これはエイなんです。この端っこのモワモワがこのエイのここの部分を取られるようにして。(笑)こっちが先にあって、丸めてクラゲになったんですけど、この辺の小っちゃいやつが結構強烈なんです。
A:ああ、出ますね。面白いですね。
C:なんか線揺れてるね。
○○:エイ中心に、エイ周辺の。
C:縦線が。
クロージング
A:他に何かありますか? この後、懇親会もありますので、もし予定が無い人はぜひ参加していろいろ聞いてみてください。
我々、応用数理の編集委員なのでちょっと先走っちゃいますけど、来年の応用数理の冊子の中に今日あったようなものの付録が……
友枝:そうです。ありがとうございます。
A:4、5連続で付きますので、2015年の応用数理の付録も楽しんでもらえると嬉しいです。
○○:会員にもなって。
A:そう、会員にもなっていただいて。いったん終わらせましょうか。
友枝:はい。流しておきますので。
A:そうですね。じゃあ、もう一度、拍手で終わりましょう。どうもありがとうございました。(拍手)
プロフィール
武蔵野大学工学部数理工学科 准教授(兼)武蔵野大学数理工学センター センター員
(兼)明治大学先端数理科学インスティテュート 研究員
2009年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了.博士(工学).
明治大学研究・知財戦略機構 ポスト・ドクター,同特任講師,武蔵野大学環境学部准教授を経て,現職.
日本応用数理学会,日本数理生物学会,日本流体力学会,日本OR学会,日本図学会,各会員.
1980年広島県生まれ.座右の銘は「日々是渋滞」.
学部時代に行っていたツーリングで「渋滞」にはまる.
それ以来渋滞から抜け出せていない...
最近では錯覚にも興味あり!!
ホームページ:http://dow.mydns.jp/