講演者:長井 秀友(東海大学)
題 目:超離散ソリトン方程式と超離散パーマネント
日 時:2016年12月15日(木) 18:00-
場 所:早稲田大学西早稲田キャンパス63号館 4階 420教室
オープニング
司会 では、時間になりましたので、数理人のセミナーを始めたいと思います。
今日は東海大学の長井さんに講演をお願いしました。
長井さんは、実は僕とは早稲田のときの助教仲間。
長井 そうです。
司会 昔から応用数理学会でも何度か顔を合わせさせていただいたり、同じ学内で色々交流があったりしまして、いつか一緒にこれをやれたらいいなと思っていて、今日はその念願がかなったということでございます。
今日、皆さん多くの方に来ていただいていますが基本的には素人ですので、あまり数学的な背景等をわかっていない人向けにお話しいただけるという感じで、ぜひ今日はよろしくお願いいたします。
講演
長井 わかりました。初めましての人もいるかと思いますが、東海大学の長井と申します。今ご紹介に預かりましたとおり、過去に私は早稲田に長いこといました。2000年に学科入学して今の東海大学に2012年に移るまで、かれこれ12年ぐらい早稲田にいました。学部生のとき、現在も応用数理学科にいらっしゃる高橋先生のゼミ生になり、修士、博士、その後助手、助教と長いことお世話になりました。2012年より現在まで東海大学に勤めています。まずはこのような機会を設けていただきありがとうございます。
今日の話は自分がドクターのころから続けている研究でして、かれこれ10年弱やっている、超離散ソリトン方程式と超離散パーマネントという研究の話についてしゃべらせていただきます。
まずざっくばらんにどういった研究をしているかと言うと、ある方程式のある形式の解を探す、ということをしています。どういう方程式かというと、超離散ソリトン方程式という方程式でして、四則演算ではなくてmax演算やプラスマイナスで表される方程式です。その方程式の解を探しています。しかも解の形式についても条件が入っていて、超離散パーマネントという名前がついているような解を考えています。これは行列式のような解です。ただそれだけ聞くと、何でそんなことやっているの、という話になってしまうので、今日は専門でない方も多いと聞いているのでその点も踏まえて研究背景を中心にしゃべりたいと思います。1章で超離散ソリトン方程式の「ソリトン」とは何ですかという話や、離散ソリトン方程式の話、その後、超離散化、超離散ソリトン方程式の説明をしたいと思います。2章が私自身がやっている研究の話です。最初に超離散パーマネントというのは何ですかという説明をします。ここはどちらかというと性質や結果を話すつもりです。細かい証明をしてもややこしくなってしまうので、どういうふうに証明をしているかというお話ができればいいかなと思います。そういう感じなので、気軽に聞いてもらえばいいかと思います。
まずソリトンの説明からさせてください。これはWikipediaからそのままコピペしてきたものですけれども、ソリトンとはおおまかに言って非線形方程式に従う孤立波のことを指しています。後で具体例を見せますが波の一種です。その波でも二つの条件を満たすようなものを指します。一つが伝播している孤立波の形状、速度などが不変ということ、速度が一定でしかも形を変えないような波です。これは粒子の「慣性の法則」に相当しています。二つ目の条件ですが、二つ以上孤立波が存在する場合にぶつかるときがあります。そういったときに衝突した後でもお互いに安定に存在することが条件となります。しかも衝突する波は二つよりも多くてもいい。線形の波動方程式の場合は、解の重ね合わせが成り立つので相互作用は起きません。それに対して非線形の場合は通常、ぶつかった後に波は壊れてしまいます。しかしソリトンの場合はぶつかった場合、相互作用が起き、壊れません。そういうような特徴を持つものをソリトンと言います。
この2条件よりこの孤立波というものは、粒子のような性質を持っています。つまり何もしなければ一定で動いていく。ぶつかったときに壊れず、追い越していきます。KdV方程式という有名なソリトン方程式があるんですが、1965年にザブスキーとクルスカルという人達が数値解析からこのような性質を発見してソリトンという名前をつけました。粒子性をあらわす接尾語としてonをつけてソリトンと名づけたことから始まりました。Wikipediaにも「因みに」と書いてありますが、本当はsolitary wave、孤立波の名前からソリトロンとつけたかったそうですが、既に商標として使われていたのでソリトンと名づけたという経緯もあります。さらにちなみにですけど、日本でソリトンと検索すると一番最初に出てくるのは会社名です。
もう少し歴史的なお話をさせてください。ソリトンという名称はさきほど1965年と出てきましたけど、その大もとは1830年ぐらい、19世紀から始まっています。どこから始まるかというと、これもソリトン系の入門書を見ると大体どの本でも一番最初に書いてあるお約束のような話なんですけど、イギリスでスコット・ラッセルという人が孤立波を実際に観測したところから始まっています。いつまでたっても波が崩れずに流れていく、そういうふうな観測をして、その後コルドヴェーグとド・フリースという2人が流体の方程式からKdV方程式を導出しています。そこから少し時間があくんですが、1950年とか60年代になると今度は計算機を使った話ですが、フェルミ・パスタ・ウラムが計算機を用いた手法で研究を行ったり、先ほど言ったザブスキー、クルスカルといった研究者によってソリトンが再発見されてソリトンという名前がつきました。
KdV方程式からソリトンというものが見つかったんですが、その後、それ以外にもさまざまなソリトン方程式が発見されました。特に1967年になると、戸田格子方程式が発見されました。同時期に逆散乱法というものが得られています。ソリトン方程式というのは非線形偏微分方程式です。非線形方程式は基本的に解くのは難しいのですが、ソリトン方程式の場合、逆散乱法と呼ばれる手法を使うと解が得られます。来年ちょうど50周年に当たりますけど、こういう発見がありました。1970年代になると、早稲田大学名誉教授である広田良吾先生による「広田の直接法」というものができました。これは非線形ソリトン方程式に対して双線形形式というものを使って、ソリトン解を求める手法です。この後、解を求める手法がいろいろ発見されまして、同時に広田先生によって、今、偏微分方程式の説明をしましたけど離散にもそういったソリトンを持つような方程式ができるよ、いっぱいあるよということが発見されていきます。
ここまでで微分方程式、差分方程式ともにソリトン方程式というものがあるということがわかって、解もどんどん求まってきました。では何でそういうふうに解が求まるのかというのが1980年代になるとわかってくる、というか解決するわけです。それは何かというと、佐藤幹夫先生によるいわゆる佐藤理論というものがありまして、それによってソリトン解がどうして求まるかとか、ソリトン方程式はいっぱいある、無限個あるという説明もできるようになりました。つまり、ソリトン理論の統一的理論が発見されて、その後代数解析などへの発展がどんどんされていくという形になって、この時点で微分と離散、全部ではないですけどおおよその枠組みが見えてきました。
これで話が終わるかというとそうではなくて、1990年代になると高橋大輔先生達によって今度は超離散ソリトンというのが見つかります。これは大もとはソリトンセルオートマトン、いわゆるデジタルなソリトンが発見されまして、その中で超離散ソリトンと離散ソリトンはどういうつながりがあるかという疑問ができました。その後に超離散化という手法が見つかってこれらの対応関係がわかりました。
ということで、今日のお話に関係するものしか書いてありませんけど、ざっくばらんに言ってしまうとこんな感じの流れがありました。つまり微分ソリトン方程式があって、離散ソリトン方程式があって超離散ソリトン方程式というのが出てきた、という歴史的経緯があります。ソリトンの発見から200年もないですね。数学の歴史に比べるとあまり長くはないですが、この100年間ぐらい一気にどかんと研究がされているような分野になっています。以下具体例を見ていきたいと思います。
ソリトン方程式はどんなものがありますかというと、現時点で無限個あるのは知られています。ここでは代表的なものを幾つかピックアップします。
まず一つめがKdV方程式で、こんな感じの偏微分方程式です。はとの独立変数で表される関数です。注目してほしいのは二つ目の項で、との積になっているので非線形です。今日はあまりお話はしないと思いますがmodefied KdV、mKdV方程式というものもあります。これも同じような感じで、違いはこの二つ目の項がになっているような方程式になっています。これも非線形偏微分方程式でソリトン解を持っています。
もう一つはKP方程式という方程式でして、これは, 3変数の関数でして、これもソリトン方程式です。二次元KdVとも言われるような方程式でして、いわゆるKdV方程式を空間に二次元に拡張したような方程式として知られています。
さらに、上の3つとは少し異なりますが戸田格子方程式です。これはというものがの関数となっています。は連続変数でしては飛び飛びの値で離散の変数を取ります。これは微差分方程式になります。これも有名なソリトン方程式になっています。こういったようなものがソリトン方程式の代表的な方程式になっています。
今日は、KdV方程式とKP方程式を主に2つの解に関して考えていきたいと思います。
Q、方程式から得られるソリトンというのはどういうことなのか。自然界に見られるどういう関係があるんですか。
長井 関係というのは。
Q、モデル化すると。
長井 KdV方程式は浅い波です。波長に比べて振幅が浅い波から近似していくとこういった式が得られます。KPはKdVのの部分をの二次元にしてソリトン解があるかなと拡張したものです。ただし、完全に二次元ではなくて方向の次元を二次元にちょっと広げる感じです。二次元に全部広げてしまうとソリトン解を持たないのでつくれないんですが、この一次元のほうにも方向にも少し広げたときにソリトン解を持つようなものとして知られています。戸田格子方程式は非線形格子、ばねの動きから出てきています。これはちょっと流体からとは少しずれるんですが、ばねの一個一個無限個つながったようなもので、フックの法則に従わずに指数関数に従うようなポテンシャンルエネルギーから導出される方程式になっています。mKdVは今すぐには出てこないんですけど、こんな感じでいろんなモデルからあって、共通するものは厳密解を持っていることです。
具体的に次のページで見せます。KdV方程式はこのような方程式です。非線形なので普通解けないと思うんですが実は解くことができます。一番わかりやすい例として、孤立波解としてこのようにを定めます。すると方程式を満たすことが代入すればチェックできます。ハイパボリックセカントを使って表していますがこれが解になります。この解は19世紀のときに既に求められています。解挙動は一つの孤立波が同じ速度で形を変えずに進んでいきます。したがってKdV方程式は、先ほど言っていたソリトンの性質の一つ目、形を変えずに同じ形を変えずに一定速度で動くような波を持っています。
さらに、今、孤立波解を紹介しましたが、実はこの他にもたくさん解がありまして、2-ソリトン解というものもあります。天下り的に突然書いてしまっていますが、解を求める手法が知られています。をこんなふうにのを取ってを2回偏微分したもので表します。をこのような指数関数の和で表すと先ほどの偏微分方程式を満たすことが、計算すればチェックできます。この解挙動はMathematica等で動かすとこんな感じになります。大きい波が小さい波を追い越していく様子が見えます。本当はもっと時間がたっていればわかりやすいかもしれませんが、さきほどいったソリトンの性質を満たしています。つまり二つの波が追い越しても衝突前、衝突後で形を変えていない。実際は少し相互作用があって、位相がずれてはいます。これは今2-ソリトンですが、3-ソリトンとか4-ソリトンというふうに波を幾つに上げてもこういう解を作ることができます。
さらに、おもしろい例を挙げます。今のは二次元、の関数だったんですが、に関してもKP方程式として解があります。KPは言いづらいんですが、カドモツセフ・ペドビアシブリ方程式といって、KP方程式といいます。これもソリトン方程式になっています。これも天下り的に答えを書いてしまっていますが、解はこのように書くことができます。というものが指数関数の和で表されていて、それに対数をとってを2回偏微分したもので2倍したものをと置きます。するとこの方程式を満たすことがチェックできます。今とりあえず答えを出してしまっていますけど、これが解になることがわかっています。この解はこういう三次元上の波になっています。これは海岸沿いの波とかを表しています。これがKP方程式の解になっています。
ここまでをまとめます。ソリトン方程式というのは非線形偏微分方程式で厳密解を持っている、そういうふうな方程式になっていることをお話ししました。今、さらっと解を書いていましたけど、このような解の求め方がこれまでの研究で知られています。歴史的に最初に知られているものが逆散乱法というものです。その後に広田先生による広田の直接法が発明され、これによっても解を求められることが知られています。今日は、それとは別に行列式の恒等式を利用した証明方法を紹介したいと思います。この方法を超離散系に当てはめましょうというのが私の研究目的になっています。
どうするかというと、まずKP方程式を考えます。天下り的なんですが、次のような変換をします。 、先ほど挙げたこの変換です。すると、この式は、適当な境界条件を設けますが、このような感じの式にできます。結構大変ですが頑張ればできます。これを一般的に広田の双線形形式とかbilinear formと言ったりします。可積分系では双線型形式に変換できると色々うれしいというか、大体の姿が見えてきます。
結果を先に書いてしまいます。こういう行列式が実はKP方程式の解になるということが証明できます。ちょっとややこしいので説明をします。これは次の行列式です。まず1列目の各 はの関数です。右上に書いてある0というものはに関する微分の回数をあらわします。0はそのままという関数です。の1というものはに関して一回偏微分してくださいということを表しています。これからこの行列式は、1列目に本の関数が用意されていて、2列目は1列目をで偏微分したものを置いてください。3列目は1列目の関数をについて2回偏微分したものを置いてくださいというふうに置いている、いわゆるロンスキー行列式になっています。さらには次の2条件を満たすものにします。分散関係式といいますが、で偏微分したものはについて2回偏微分したものと等しい。で偏微分したものはについて3回偏微分したものに等しいというふうにします。そうすると、この行列式は実はこの方程式の解であることが示せます。
Q、このは。
長井 は任意の正整数です。次の正方行列だったら全部解になります。2次になると2-ソリトン解とか3になると3-ソリトン解とか、そういう形になります。
証明をします。2ページぐらいで何とかなると思うんですが、の場合で証明します。この場合、はこんな感じになります。2次で2本関数を用意してあげてこれらをで微分したものがここに置かれる。表記を楽にするため、各列のに関する微分の回数をこう置きます。すると、をで偏微分した場合はこうなりますが、行列式の微分は計算規則から1列目を微分したものと2列目を微分したものの和になりますよね。すると、ここのものは同じベクトルなのでこの行列式は0になります。したがって、結果的にの偏微分はというふうになります。こんな感じでがあらわされました。同様にの偏微分とか 偏微分も同じ計算方法で求められます。例えばで偏微分しましょう、すると行列式の微分の計算なので1列目をで偏微分します。ただしで偏微分した場合、分散関係式での2回偏微分に対応しているので、一列目はで2回微分したものになります。同様に2列目の微分もを2回偏微分することに等しいので3になって、書き下すことができます。に関しても、実質分散関係式から全部の偏微分に置きかわってしまうので、こういった感じで簡単に計算できます。
あとは、同様です。というのはに関して4回微分してくださいという意味です。2次ぐらいであればそんなに難しくなくできます。この式の微分を計算していって、方程式に入れてあげます。そうするとうまいことに、本当にきれいに項が消えていって最終的にこのような形に落ち着きます。2つの行列式の積の3つの和です。ちゃんときれいに書き下すとこのような形になります。ここで行列式の恒等式の出番です。行列式の恒等式でPlücker関係式というものがあります。関係式自体はもうちょっと一般的なもので表されますが、Plücker関係式の一部としてこのような恒等式がラプラス展開などを使って証明できます。は任意の次の列ベクトルにしましょう。の部分は全部一緒のものを用意してあげて、残りの2列をとで分けます。このとなどに対して、足し算、引き算、足し算とすると0であるという恒等式です。今、これを元に上の式を比較すると、このというものがと思ってあげて、をと見てあげるとこ対応しています。これはが何であろうと0になるので解であることが証明できます。
ちょっとややこしいので、もう1回繰り返して説明します。KP方程式の解として、各要素が分散関係式を満たすこういう行列式を用意しましょう。方程式に代入します。計算してこの分散関係式を使ってロンスキアンを計算していくと、どんどん余計なものが消えていって、最終的によく知られている行列式の恒等式になってめでたく証明終了と、そういうふうな仕組みになっています。これが後の離散版にも出てきます。超離散にも似たような性質を探したいなというのが研究目的になってきます。
例を挙げます。をこのように置きます。すると先ほど見せたようなこんな波になります。さらにもっと複雑な形にするとおもしろいものができるんです。こんな感じのものもできます。行列の要素をうまいこと操作すると、これは全部厳密解なんですが、こういった波の挙動を表す解ができます。ということでここまでで微分の話は終わります。もう1度話をまとめると、ソリトンの方程式と呼ばれる偏微分方程式があります。それは非線形方程式なんですが厳密解が存在します。その厳密解は指数関数の和の表記あるいは行列式の表記がありますということを紹介したかったわけです。
次に離散の話に移ります。今、偏微分方程式の話をしたのですが、離散にも実は似たような、つまりソリトン解を持つような方程式が存在します。広田先生が行った研究になります。対応関係を見ます。まず最初に挙げたKdV方程式を式変形するとこのような偏微分方程式になります。ちょっとややこしい形をしていますが、の非線形偏微分方程式です。導出方法はここでは説明しませんが、この方程式を離散化したものとして、このような方程式があります。ここでは、はの関数です。は任意の正定数とします。この方程式は微分ではなくてのずれたもの、がずれたものとの関係式なので離散方程式になっています。この方程式を離散KdV方程式といいます。
これにも対応関係として、もとのKdV方程式と似たような解があります。この解も指数関数の和であらわされています。ちょっとややこしいですが、がこう定義されていてはこのような関係式を満たします。はこういうものになります。とは任意定数です。これも天下りに書いていきますが求める方法が知られています。この解の挙動はどうなるかというと、を元にをあらわすことでみることができます。この図ではわかりやすさのために線を引いていますが、実際は飛び飛びの値になっています。空間変数も時間も飛び飛びになっていますが、こういうような挙動を示します。見てわかるかと思いますが、これもソリトンの性質を満たしていて、二つの波が一定スピードで動いていて、ぶつかっても壊れずに追い越しています。つまり何が言いたいかというと、離散方程式に関してもソリトンの挙動を示すような方程式が存在しますということがわかりました。
今日の話はKP方程式とKdV方程式なのですが、KP方程式にも離散バージョンがあります。先ほど紹介したKP方程式がこれになります。これの離散バージョンとしてこの方程式を離散KP方程式、あるいは広田三輪方程式と言います。ここでは、の3変数の関数で、、は正の任意定数になっています。これだけ見るとKP方程式は全然離散バージョンに見えないですね。どこが対応しているか見えてこないんですが、解を見ると見やすくなります。
離散KP方程式の解は先ほどと似たような感じで次の行列式であらわされています。このが本用意されています。の0というものは、変数とは別の補助変数のの値を表しています。の場合の関数を1列目に用意しましょう、2列目はその補助変数を1個増やしたものを与えましょうという感じでだけずらしたような関数を並べています。
先ほどKP方程式にはという関数が分散関係式を二つ満たしていました。離散の場合もこういった3つの分散関係式を満たしているとします。そうするとこのは離散KP方程式の解であることが証明できます。
ここではやりませんが、方法は似たような感じです。行列式を方程式に代入します。代入して分散関係式を使って計算していくと、余計な項がどんどんうまく消えていってくれて、最後にPlücker関係式に帰着されて行列式の恒等式となり、0になって証明ができます。そういう仕組みになっていて、微分のKP方程式との対応が見えるようなものになっています。
超離散化の話ですね。ここまでで微分ソリトン方程式と離散ソリトン方程式の話ができました。今日話したい話は超離散ソリトン方程式なんです。まずは超離散化の話に移りたいと思います。
1990年代に超離散化というものが発見されました。本日参加されている高橋先生のゼミ生はもうよく知っていると思いますが、超離散化というのは一言で言ってしまうと指数関数を使った変数変換と、極限操作を行う一連の手続のことです。それによって何ができるかというと、従属変数が離散的になります。ちょっとわかりづらいと思うので最初にイメージで説明します。図は先ほどの離散KdV方程式のソリトンをプロットしていますが、これは空間変数が飛び飛びに値に取っています。時間も飛び飛びに値を取っています。従属変数に関してはもちろん飛び飛びにはなっているんですが、いろいろな値を取ります。これから説明する超離散化ということをするとこの方程式がこんな感じになります。どういうものかというと、これは特に極端な例ですけど、が0と1の値しか取らないような波になります。つまり、従属変数すらも離散値、0、1だけとか、あるいは整数値だけしか取らないようなものになります。つまり従属変数も離散値になるので超離散化というふうに呼ばれます。
手続の説明をさせてください。超離散化の一番単純な例としてこんなものを用意します。「差分と超離散」に載っている例なんですが、これは2階の差分方程式です。これに対して超離散化を行います。まず変数変換を行いましょう。仮定としては正というふうにします。これは後で説明しますが大事な仮定です。それに対して変数変換でを指数関数を使って変換を行います。その次に正のパラメータを元にをつけて極限を取ると、この式がこんなふうに書きかえられます。これには公式があります。要は指数関数の和に対してを作用させて極限を取るとmaxの値、大きいほうを取ってくださいという演算に変わるという公式があります。証明は難しくないです。この公式を使うとここのの部分がに置きかわります。この元の式に関して変換を行って極限操作を行うことを超離散化といって、得られた方程式を超離散方程式というふうに言います。
もう一回式だけ見てみます。これが元の式です。超離散化したらこういう式になりました。見てわかるのは、もともとの式の足し算がmaxになっていて割り算がマイナスに置きかわっています。ここには挙げていませんけど、掛け算は足し算になります。なので、すごく雑に言ってしまうと、超離散化というのは、もともとの四則演算を別の演算に置きかえるような操作になっています。具体的にはプラスをmaxに変えます。マイナスはちょっと後に回しておいて、掛け算はプラスに変わって割り算はマイナスに変わりますと、そういう操作に対応しています。
そうなると、超離散方程式には割り算、掛け算がないので、例えば発展方程式に関してうまいこと初期値を整数値に取ってしまうと次の時刻の値はmaxとプラス、マイナスしかないので、もちろん次の値も整数値になります。割り算がないからです。次のも同様に整数値になるので、そういった理屈から従属変数を最初に初期値を整数値に取ってしまえばずっと延々と残りの時間も全部整数値になるので離散の値しか取りません。対応関係としてはこんな感じです。微分方程式は独立変数とか従属変数を連続に取ります。差分方程式というものは独立変数は離散値を取ります。従属変数は連続の値を取ります。超離散方程式は独立変数も従属変数も離散値になるので、そういった理屈から超離散方程式というふうに呼ばれています。
ということなんですが、マイナスを今、飛ばしました。問題はここです。マイナスはどうなるかというと、ここが一番の悩みどころになっていまして、マイナスは一般的にはきちんとは何になるかはわかりません。超離散化の困難、負の問題とかいうんですが、まずもう一回復習すると、超離散化をする際に何をやったかというと変数を指数関数を元に変換しました。その後に公式を使って極限をとりました。そうすると、当然一番最初に気にしなければいけないのは指数関数を用いた変換は、元の変数が正じゃないとやってはいけません、やってはいけないというか、その後そういう変換は意味がなくなってしまいます。ということで、まず指数関数を用いた変数変換を行うために正ということがわかった上で変換に妥当性があります。さらに先ほど挙げたこの超離散化の鍵となる公式がありますが、これは足し算だからこういう証明ができています。これがマイナスに入ってしまうとAが大きい場合はうまいことやってAになることはできるんですが、Bが大きいとするとこれは真数が負になってしまうのでそもそもこの値が決まりません。ということなので、さっきさらっと超離散化していましたけど、何でもかんでも超離散化できるというわけではなくて、条件としてまずパラメータとか変数が正である必要もあるし、わからないにしても大小関係がはっきりしないと超離散化はできない。何でもかんでも超離散化できるわけではなくて、ある程度条件がしっかりわかっていないと超離散化は難しい。ただ少し補足しておきますと、最近はこの符号も取り入れたような超離散化という手法も開発されていまして、それによってこういう条件がある程度わかっていなくても超離散化する手法はできています。ただ、それは得られる方程式が陰的になってしまうので、かなり複雑になるのでなかなか難しい。できるけど計算はかなり難しくなってきてはいます。そういうのもあります。
ということで、超離散化は結構しづらいんです。できる方程式とできない方程式があります。けれども、ソリトン方程式に関しては超離散化するとおもしろいことが起こります。先ほど挙げた離散KdV方程式に関して、変換をこのように与えて超離散化をするとこのような式になります。全部さらっと書いてありますけど、要は大切なことは掛け算が足し算になっていて、足し算がmaxになっている、そういうふうな仕組みだと思ってください。これは超離散KdV方程式といいますが、maxとプラス、マイナスであらわされている方程式です。方程式の解がどうなりますか、というと、この解が実はこの方程式のソリトン解を超離散化すると解が得ることができます。
ここも先ほど挙げた離散KdV方程式のソリトン解ですが、これに適当な変数変換を与えてあげて超離散化を頑張って計算するとこんな感じになります。これは絶対値をあらわしています。このであらわされている関数は超離散KdV方程式の解であることが代入すればチェックできます。
どういう挙動になるかというと、先ほど少し見せたこんな感じになるわけです。いわゆる箱玉系になります。直線を書いていますけど、Uに関しては今は0と1しか取らないんです。こういう解になって、大きい波が小さい波を追い越していく、ぶつかっても壊れずに追い越していくような性質を持っています。つまり超離散、maxプラスマイナスであらわされている方程式に関しても、同じような挙動を示す解があるということがここからわかる。
Q、波がぶつかって壊れるというのは、どうなるんですか。
長井 壊れるというのは、要はへたってなくなってしまったりとかそういうもので、大もとの形が変わってしまうようなものとしてここでは言っています。この波がここになっても変わっていない。これは結構難しい話になるかもしれないんですけど、そこまで言うと最近いろいろなものが出てきていて、例えば形が変わるとか戻ったりするとかそういうのもあります。結構名前はいろいろあるとは思うんですが、いわゆる通常のソリトンというのはこういう形です。形が変わらないものをソリトンと言っています。
ここまで背景がやっと終わったのでまとめます。まずソリトン方程式というものがあります。微分ソリトン方程式と離散ソリトン方程式があって、どちらも基本的に非線形の方程式です。解があります、厳密解があって、特に解表示として指数関数の和であらわされる場合と、行列式であらわされる場合が存在します。特にここではちゃんと話していませんでしたけど、佐藤理論と言われている理論があって、微分、離散ソリトン系に関しては広い枠組みで統一的な理論が知られています。一方で今回考えたい超離散ソリトン方程式に関してですが、超離散方程式はどういうものかというと、離散ソリトン方程式に超離散化すると得られる方程式で、maxプラスマイナスであらわされる方程式になります。まずここで一番厄介なのが、ではそういった方程式の解を探しましょうというと、四則演算ではなくてmaxとプラスマイナスなので結構扱いづらいです。maxの場合は2項演算と思った場合、逆元が必ずしも存在しないので、計算、式変形がやりづらいというデメリットがあります。ただしそれでも超離散ソリトン方程式に関しては、その離散ソリトン解を超離散化すると解を得ることはできます。微分離散に関しては大体きれいな構造はもう既にわかっているのに対して、超離散系に関してはそういった構造がまだ全然わかっていない不明な状況になっています。
ということで、やっと自分の研究内容に入ります。微分離散に関してはソリトン系の解構造というのはよくわかっています。では超離散系にもそういう解構造があるのかどうか、それを調べたいというのが研究の動機になっています。方程式に関しては離散ソリトン方程式を超離散化すれば出てきます。このmaxプラスマイナスであらわされるような発展方程式の解はどうなりますか、というのが知りたい。摂動形式解と書いていますが、いわゆる指数関数の和であらわされる解は、当然正だし、和であらわされているのでマイナスもないので超離散化しやすいです。指数関数の和はすなわち超離散化は大体できます。ちょっと計算は大変ですけどできます。
一方で最初に挙げた行列式、KPとか離散KP方程式の解というものは、行列式で表されますが、それを超離散化することを考えてみます。基本的にはすぐにはできません。かなり難しいというか厄介です。それは何でかというと、定義からすぐわかるんですが、例えば2次の行列式を考えるとという引き算になってしまいます。例えばが全部正であったとしても定義に必ずマイナスが入ってしまうので、直接そのまま行列式を超離散化するのは難しい。当然3次になったらもっとマイナスは増えてくるので、行列式解をそのまま超離散化しようとするのはなかなかできません。Plücker関係式という行列式の恒等式も超離散化するというのは直接は難しい。
もちろん理論上は行列式を全部ばらしてあげてどれが大きいかと調べていけば、恐らく超離散化はできるかもしれません。ただ、この辺から少し個人的な話が入ってくるんですが、行列式を展開しました、これは大きいねと調べて超離散化しても結局出てくるものからでは行列式との対応がわかりません。わからないというのは、その行列式の次の正方行列を一回全部ばらしてしまったら行列式の性質が見えてこないです。気持ち的には超離散系に関してもこういった行列式みたいなものをつくりたいという気持ちがあります。さらにこれも大分個人的な意見ですけど、離散ソリトン系から超離散化して得るものというのは、結局離散系の二番煎じ、コピーみたいなものしか出てこないです。同じものしか出てこないので新しい解が見えてこない。といってもこれは言い過ぎなんですけど、超離散化すること自体も結構難しい話で、今、自分のところの大学院生に線形方程式に関しての解を超離散化してもらったりしたんですけど、意外に大小関係を評価するのは難しいんです。それだとしても大体つくった後に結果だけ見てしまうと、ああそれはできるねという感じになっています。つまり、離散から超離散化をしても、離散をそのままコピーしているような結果が出てきてしまうので、対応は見えてくるのですが、ちょっとそれはおもしろくない。個人的には、超離散ならではの解をつくりたいというのがあります。恐らく今、高橋先生の研究室でやっているようなセルオートマトンの話もそういった超離散系ならではの構造を調べようとしています。恐らく高橋先生はもっと可積分系にも限定されない、広い意味での研究をしているんですけど、そういう感じで、離散系の構造も考慮はするんですが、そこに縛られずに超離散だけでの解を探したいというのがあります。そこで研究のモチベーションとしては超離散ソリトン方程式に関して行列式に似たようなものはありますか、しかも解の証明法は離散からそのまま超離散化して得るのではなくて、超離散だけでの証明をつくりたい。もっと言うと、これは多少野望ですけど、可能ならば離散系にはない超離散ならではの新しい解を見つけることはできませんかと、あるいは、そこからフィードバックして離散系の新しい解を見つけることはできませんかと、そういうふうな研究のモチベーションがあって研究をしてきました。その答えはまだ途中ではありますけど、超離散パーマネントというものを使うと、この3つに対するようなものが見えてきています。
やっと自分自身の研究の話になりました。ここまで話せば実は満足で、あとは大体自分の研究はどういうふうなものができましたかという、ちょっと細かい話になってきます。超離散パーマネントというものを使うと、さっき言っていた超離散系における行列式解のようなものが求められます。しかも解の証明も似たような感じでできますよというのが最近わかっている話です。といっても一番最初に見つけたのは私ではなくて高橋先生と広田先生のこちらの論文から入ってきます。まず超離散パーマネントを説明します。次正方行列に対してこのように定義します。超離散パーマネント、ウルトラディスクリートパーマネントなのでUPというふうに書かせてください。表記はこういうふうに書きます。これだけ見るとわかりづらいと思います。行列式の定義を見たほうが比較しやすいので書いておきました。はすべての置換、次の対称群を表しています。ここから持ってきて符号を決めて、要素同士の掛け算を全部足し算しましょうというのが行列式の定義です。それに対して符号を取ってしまったものをパーマネントといいます。一般的に、計算機、最適化問題とかで使うんですかね。それに対して、UPは掛け算の部分を足し算にして、足し算の部分をmaxに置きかえたものなので、いわゆるこれは超離散バージョンとして超離散パーマネントというふうに名前をつけています。こんな定義になります。
具体例を見たほうが話は早いかと思います。このUPというものがありまして、2次の場合はこのようになります。このうち大きいものを選んでくださいというのがこの2次のUPの定義になります。3次に関しても、いわゆる行列式と同じような感じで組み合わせを全部足し算しましょう、これとこれと足し算しましょうというのが6つあって、6つから一番大きいものを選んでくださいというようなものを3次のUPというふうに定義します。4次も5次も全部一緒です。
定義から行列式と似たような性質が見えてきます。どんなものかというと、まず上半分は行列式の性質になっています。これは皆さんよく知っている話でして、例えば3次の行列式に関して定数を掛けた場合は、ある列とかある行に掛け算したものと等しくなる。ある列が二つのベクトルの和であらわされている場合は、二つの行列式の和に分解できますというのが行列式の性質です。超離散パーマネントに関しても似たような性質があります。超離散系の場合は掛け算が足し算に対応して足し算がmaxに対応していると思ってください。そうすると、行列式はc×となっていますが、このc+3次のUPを見ると定数を足すとある列に定数を足したもの、ある行に定数を足したものと等しいことが定義から示せます。同じように対応したものとして、ある列が2つのベクトルのmaxみたいな感じで、ちょっとややこしいですが、こういうふうにあらわされている場合は、2つのUPの最大値になります。いわゆる上と対応関係が見ることができます。こういう似たような性質があります。
一個大きな問題があります。何かというと、行列式の場合は同じ列ベクトルが2つあったりすると0になるんですが、そういうのはできません。パーマネントもそうですが、例えばこういう2次行列式は展開すると4つの行列式に分解されますが、実は同じベクトルなので消えて3つの和に分解できます。一方でUPの場合は、これは先ほどの性質を使って分解すると、4つでてきます。しかしこの色付きの項が無視できないんです。ここが結構厄介なものになっていて、色つきのUP、これが最大値になる可能性があるので無視できません。そこが大きな違いになります。
このように違いもありますが、結果を書いてしまうと、いろいろな超離散ソリトン方程式がこのUPを使って解であらわされることがわかっています。さっき言った超離散KdV方程式とか超離散戸田格子方程式とか超離散KP方程式、超離散hungry-Lotka Volterra方程式というのは、どれも超離散ソリトン方程式なんですが、こういうような方程式が全部UPであらわされることがわかっています。特に、これらは4つともUPであらわしていて、証明も全て超離散系を解いた証明法を与えています。戸田格子とかhungry-Lotka Volterra方程式だとソリトン解をもうちょっと拡張したような解も見つかっています。先に結果を書いてしまっていますが、こういうような結果が得られています。
今日は、この超離散KP方程式に対して、もう少し広い解が最近見えてきたので、残りの時間で少し紹介をしたいと思います。超離散KP方程式の細かい話になってきますので、どういうふうに証明できますかという話をして終わりにしたいと思います。超離散KP方程式は先ほど挙げた離散KP方程式に関して超離散化をし、条件を与えることで、こういうふうな方程式になります。はの関数でこのような方程式になります。この解がどうなるかというと、実は超離散パーマネントでこのような感じで解が与えられますということがわかりました。先ほどの離散KPのときに話したような感じで、ここにという本の関数があって、横はこれの変数を1個ずらしたもの、2個ずらしたもの、3個ずらしたものというような感じが全部ずらずらっと並んでいるのがUPになっています。
ただし、条件がややこしくてかなり気持ち悪いんです。離散KP、微分KPの場合は条件が大分緩くて、離散の場合でいうと、この条件式1のような条件のみで証明できました。しかし超離散系の場合だと条件2と条件式3が必要になってきます。あとでもう少し詳しく説明しますが、2つがプラスアルファされていて条件式3はこれもを並べたベクトルをであらわして、このハットはこのベクトルだけ抜かしてくださいと、そういうふうな意味です。ちょっとややこしいですが、大事なことは離散とか微分の場合はこの条件式1だけで証明はできるんですが、超離散の場合は2つほど条件があると解であることが示されます。
対応関係を見たほうが早いので対応関係を見せます。一番最初に挙げたKP方程式の解は、ロンスキアンであらわされていました。証明方法は代入して計算していくことで、Plücker関係式という行列式の恒等式に帰着されて証明ができます。
離散KPもここではやりませんでしたけど、こういうような行列式を方程式に代入して行列式の性質をうまく使って消していくと、最終的にPlücker関係式に帰着されて解であることが証明されます。
今回与えた話というのは似たような対応です。超離散KP方程式があります。この方程式にこういうUPを代入してうまいこと計算をしていきます。ここで味噌なのはUPの場合はPlücker関係式というものがそもそもないんです。行列式の場合は恒等式があるんですが、UPの場合はそういった恒等式が基本的にないので、ここで何かずるいかもしれませんけど、ここで出てくる式を条件式3として成り立つというふうにします。いわば条件式3というのがさっき言ったPlücker関係式の対応物みたいな感じで与えて解となることが示されます。
今、条件式2を説明していなかったのでもう少し説明します。条件式1、2、3があって、1がこれです。これは微分、離散で言うところの分散関係式に対応しています。うまいこと使うことによって、微分離散と似たような感じでUPがうまく分解できます。2次の場合で言うと、というものがこのように展開されていきます。この色つきの部分がさっき言ったUPと行列式の違いで、同じベクトルを持っているものが出てきてしまいます。行列式の場合だとこういうのは無視できてきれいにどんどん消えていくんですが、UPの場合はこれは無視できません。
そこで条件式2がでてきます。条件式2というのはややこしい形になっていますが、これを使うことによって、同じベクトルを持っているUPよりも変数をそれぞれずらしたUPのほうが大きいということを証明できます。要は、条件式2を認めてしまうとこういった大小関係が成り立つので、色つきの部分、同じベクトルを持っているようなUPが無視できて計算ができていきます。
という感じで、結局何が言いたかったかというと、複雑な話なので要所だけ言ってしまいますと、超離散の場合では行列式の代わりにUPを使います。UPは行列式とは異なる部分があります。それをうまく解消するために、まず条件式1は微分や離散のKP方程式の分散関係式と同じような役割として与えます。次に条件式2を使うことによって、行列式の場合でいうと同じベクトルを持つ行列式は0になりますよという性質に対応させています。つまり同じ列ベクトルをもつUPを無視できるということになります。条件式3というものは、UPではPlücker関係式に対応しているような恒等式がないので、それを認めるためにこれを与えています。そういう感じで条件式2と3をうまく与えることによってさっき挙げたUPが解になることが証明できます。
ここまでだけ聞くと、証明に必要な条件を付け加えているので、ずるをしているように思うかもしれません。ですが実際にこういったものを満たすような解は幾つかわかっていてます。定義としてこんな感じでを具体的に与えます。証明は結構ややこしいんですが、さっき言った条件式1、2、3を満たすことがチェックできます。実はこの解は離散KP方程式のソリトン解を超離散化しても得られます。どういうことかというと、これはまだ論文にはしていないんですけど、離散KP方程式のソリトン解を超離散化すると実はこういった形になることがわかっています。なので、これらはソリトン解の超離散対応に実はなっています。
さらにもうちょっと拡張した解が最近わかりました。をこんな感じにします。この場合でも条件式1、2、3を満たすことがわかりました。これに対しては今のところまだ離散版のどういったものが対応しているかはまだわかっていません。新しい解になっているかどうかもちょっと微妙な点ですけど、少なくとも超離散系に関してソリトン解ではない解も、いわゆる通常のソリトン解はないような解も見えてきているというのは今現在わかっていることになります。
ちょっと早いかもしれませんけど、ここまででまとめます。結局、背景ばっかりになってしまいました。微分、離散KP方程式というのがソリトン方程式にあります。それに関して行列式解が知られています。これに対して超離散系に関しても似たようなものはあるということは最近わかってきました、これは多少主観的になっていますが、UP、超離散パーマネントを使うと似たような対応関係が見えてきています。今後の課題としては、ともかく超離散系、今ずっと離散との後追いみたいになっているので、なるべく超離散系ならではの解をつくりたいというのが一つの野望になっています。さらに言うと、maxプラスというのは、かなり扱いづらいので、この世界での何がしかの方程式の解法とかというのを確立できると非常におもしろいかなとは思っています。ただ、それはまだまだ先の話にはなっています。
最後の参考文献を挙げておきます。いろいろいっぱい本はありますけど、ここら辺が読みやすいかなと思っています。
ということで、以上です。
質疑
司会 どうもありがとうございました。
何か質問がありましたらお願いします。
Q、UPでの解の証明のときに、離散でいうPlücker関係式に対応するような条件式3というのを持ってきていたんですけど、元の離散のほうは恒等式で、その条件式3というのはどれくらい厳しいんですか。それを要請するというのは。例えば何か条件式1、2、3を満たすような解が2種類出てきていますけど。
長井 見つけるのは結構難しく、すぐには出てこないです。解1に関しては、これは離散ソリトン解から見つけています。解2も実を言うと離散のほうに似たような解があって、それをとりあえずまねて見つけています。離散の場合は本当はN個ずらっと並んでも解となるのですが、超離散の場合では実は3つじゃないとできないということになっています。これは今すごく不思議なところです。つまり、離散版は任意個あってもPlückerの式を満たすんですけど、超離散の場合で言うと条件式3を満たすためには3個までしかできないというのであるので、そこはまだわかっていない部分です。条件式3を満たすという証明自体もかなり大変です。
Q、今のお話だと、この二つ目の解といのうは離散版で似たようなものがあって、そこがちょっとまねてつくったというのは。
長井 そうですね、大もとは児玉先生の研究でN×NとN×Nの行列式同士の積で表される、離散版で言うとこういうような解があるんです。片方は係数行列になっていて、もう片方はいわばソリトン解を満たすような指数関数があって、それが分散関係を満たす解であることが証明できるんです。
Q、係数がたくさんあるということは、一般解になっているということですか。
長井 係数はいっぱいありますけど、結局これは定数なので、一般解というよりはこっちにみたいなのが入っているので、ここがコアになっています。これを見て安直に、では超離散パーマネントでもこうできるかなとつくってみたらそうはうまくいかなかったりとか、ここがNが3までじゃないといけなかったよという話になります。元のものから超離散化したというよりは形式を見て、きっとこっちはうまくできるかなという形で少しダメ元でやってみたという感じです。
Q、たまたまうまくいった。
長井 そうです、そんな感じです。
Q、その条件3つ満たすように何かシステマティックにこの解は構成するような方向が何かないのかな。
長井 それを探しています。今はとりあえず条件だけでつくっている感じなのが、いろいろな解がわかっているといいんですけど、まだ2つしかわかっていないです。
司会 ちょっと的外れな質問になってしまうかもしませんが、3というのは何か意味がありそうなんですか。
長井 そこが今まだわかっていないんです。それこそ本当に超離散ソリトンの対応を見たことによってわかるかもしれないんですけど、なぜ3で止まるかというのが、一番は具体的に言うと、この条件式3を証明するときに。
司会 4とかはだめな項が出てくる。
長井 そうなんです。
Q、問題の次元が3だからとかいうことはないんですか。
長井 そういうことでもないんですけど、この関係式を出すときに係数を選ぶんですけど、3だと……。
司会 すみません、何か的外れな質問したかもしれない。
長井 いいえ、そこをうまく説明したいんですけど、なかなかわかりづらくて、要は証明する際に3までだとペアを組む時に重複部分が出てくるんですね。細かい話なんですけど、3ぐらいで展開するとどこかかぶるので最大値がここだよねと決まります。4になってしまうとうまいことかぶらなくて、その余計な部分が最大値になってしまって等式にならないということになるんです。ちょっと説明がうまくできないんですけど、
司会 わかりました。その辺がおもしろく発展的になると面白いんですけどね。
長井 そうなんです。そこら辺が鍵なのかなとは思っています。
司会 ほかにございますか。
Q、最後に、maxプラスマイナスとなっているんですけど、maxプラス代数だとデターミナントとかパーマネントというのはこういうやり方で定義するものなんですか。
長井 それについては一番最後のページにある文献に書いたものに似たものがあります。可積分系とずれているんですけど、いわゆるmaxとプラスであらわされるような線形代数みたいなものがあって、その世界だと、異なる定義が扱われています。むしろこれは逆に僕が教えてほしいぐらいなんですけど、例えば3次とかで話すと、私が今日やっていたUPとかというのはこの3次のものを全部足し合わせたものですけど、そうではなくてマキシマムサイクルミーン,最適化問題とかそっちのほうでやると思うんですけど、こういうような3次だけじゃなくて1次の係数とかも全部含めたものが実は固有値になるとか、そういうふうな研究はあります。そっちのほうの文献を調べてみたりするのですが、あまりUPとかの今日やったような話というのはなくて、逆にそういうのがどこかに使われているのではないかなというのは知りたい。今日やった話もそうですけど、毎回毎回研究を進めるたびに自分で公式をつくっている感じなので、ぜひ何か先行研究があったら教えていただきたいという状況です。
司会 ほかにございますか。
Q、超離散のほうで閉じたので証明とかも全部できるという話で。
長井 はい、そうです。
Q、条件は、離散のほうから考えた概念は利用してきている。
長井 そうですね。ある程度はそうですね。例えば条件式1に関してはもう離散から大体持ってきていまして、条件式2とか3はその証明のときに必要だなという感じで、その場で、さっきの話のようにつくっていく感じになっています。これはもう全然離散からは見えてこないものです。
Q、つまり2とか3とかの意味とか理由とか。
長井 それは離散のほうでは全然見えていないです。
司会 その辺もおもしろいポイントなんですか。
長井 そうです。
Q、素人考えなんですけど、デターミナントの定義式に戻すとマイナスが出てくるというのがあって、それで出たから定義がうまくできないということで。
長井 そうです。
Q、デターミナントは固有値の関係にすると、行列が正の固有値となっているなどの関係はあるんでしょうか。
長井 それはどうなんでしょうか。
Q、操作はできたのかなと思って。あまりそういうのはアプローチは難しいんですかね。
長井 それこそ、今、多分、少しずれるかもしれませんけど、行列式でトータルポジティビティーとか全部行列式も全部正のようなものとかというのはあるので、そういうのがつながってくるんですかね、逆に聞きたいです。
Q、maxプラス代数というものの固有値は1個しかない。
長井 それはそうです。
Q、ちょっとわからないですけど、この辺の話はmaxプラスの代数というところの代数系に乗っているわけではないんですよね。
長井 そうです。のっていないです。
Q、普通の線形代数の行列式のマイナスをプラスにしてやっている感じだから、あまり。
長井 さっきの話もそうですが、maxプラス代数の話も研究はされているんですけど、どうしてもここら辺との結びつきがまだ見えてきていないんです。固有値が一体どうなっているか。
司会 何か新しい有機的で、少しおもしろいですよね。
長井 それが出てこないかなと思ってやっています。
司会 ほかに何かございますか。
いいですかね。そろそろこれで終わりにしたいと思います。何かもし細かいこと等が聞きたいことは多分飲みに行きますので、よろしければ参加してください。
どうもありがとうございました。